民間薬と漢方薬
民間薬と漢方薬
民間薬と漢方薬の違いというと大概の方は返事に窮するだろう。草根木皮を煎じるという点では同じだし、現代医学の病名と直接結びつかない病気を治療するという点でもよく似ている。
幕末に香取地方で活躍した宮負定雄(みやおいやすお)は、農学者であり平田学の神道学者でもあった。彼はよろずの学に通じていたが、近在の貧しい農民に自己治療の方法を教えたり、簡単な薬物を分け与えたりすることもあった。彼が座右においた治療書には専門家から見ても漢方薬だか民間薬だかはっきりしない薬物がたくさん登場する。
朝鮮人参は高貴薬の代表で、それこそ良い品物には驚くほどの高値がついたらしい。いまでも人参の魔力は健在なのだと思わせる“事件”が、この現代に起こっている。
それは今から十数年前のことで、ある山草に朝鮮人参に類似した成分が含まれているという記事が農業新聞に連載されたことが発端となった。この記事が広まるや、千葉県の山野にも自生していたこの植物が姿を消すほどのブームとなり、多くの人がこれを煎じて服用し、また知人にそれを促した。
当時服用中の人にこの薬は何に効くのかを尋ねたとしても、ほとんどの人々は正確には答えられず、一部の人だけが人参に類似の成分を有するのでという程度だろう。人参に似ていれば何の病気にでも効くと考えていたとすれば江戸時代にも劣る知識水準である。
事実、腰痛の人も心臓病の人も、またガンの患者も服用していたから、一種の万能薬ととらえていたのだろう。
しかしそのブームも去り、今日では日本中の山野が平穏を回復した。この山草の通称はアマチャヅルといった。名前をご記憶の方もあろうと思う。実際の病気にどのくらい効いたかというと、十数年で忘れられる程度であるとすればその効果も高が知れたものとしてよいであろう。2000年前にすでに存在し今日もなお応用の広がる漢方薬とは比べるべくもない。
最初の設問に戻ると、医療上の法律で定められ一定の品質が保証されている一部の天然薬物が漢方薬で、それを持たないものが民間薬である。この分類は意外と知られていない。